網走市鉄道記念館は旧・湧網線の卯原内駅跡にあります。
この施設は喫茶店を兼ねた資料館と駅構内・ホーム跡に広がる交通公園から成ります。
なお、「卯原内鉄道記念館」という呼び方もあるようですが、本記事では建物の正面に書いてある通り「網走市鉄道記念館」で統一します。
湧網線は車窓が美しい路線だった
まずは湧網線について軽く説明すると、1987年まで網走駅から、やはり廃線になった名寄本線の中湧別駅までを結んでいた路線です。
能取湖・サロマ湖、そしてオホーツク海に沿って走る、北海道のローカル線の中でもひときわ車窓の良い路線としてし知られていました。
その後代行バスが運転されますが、 そのバスすら途中の区間が廃止されるという有様になっています。
この辺りは、「車窓が良い路線ほど乗客が少なく廃止されてしまう」というローカル線の法則に誠実に従ったといえそうです。
実際に1964年10月号の時刻表を見ると、今では廃止されたローカル線にも急行や準急が走っていた当時であっても、湧網線に優等列車の設定はありませんでした。
網走市鉄道記念館は湧網線の資料館
湧網線資料館は喫茶店「エルコンドル」の2階部分にあります。
普段は閉まっているので喫茶店の人に見学したい旨を伝えて鍵を開けてもらうことになります。
ちなみに資料室内は土足禁止でスリッパに履き替えます。
スペースは狭いですが、鉄道ファンなら盛り上がるような展示品がいろいろとあります。
一番目立つのが壁に埋め尽くされた駅名板や行き先表示板で、書体が昔懐かしいものもあります。
また、昔の運賃表やトイレの備品と思われる、手洗い水を入れるバケツもあります。
透明のケースの中ではタブレット容器や、廃線直前の記念切符などが展示されています。
蒸気機関車や気動車の運転席のハンドルといった珍しいものも見ることができます。
卯原内交通公園は能取湖のほとりにある
卯原内交通公園は卯原内駅跡を整備したエリアで、ホームには9600形蒸気機関車に索引されて旧型客車が停車しています。
なお、鉄道記念館の建物はホームと直結しているので、まるで駅の待合室から列車に乗るためにホームに出ていくような感覚になれます。
客車、オハ47は中に入ることができ、一部畳を敷いた休憩所のように改造されていますが、昔のままの座席が残っている部分もあります。
しばしの間、蒸気機関車の汽笛を聞きながら、木造の内装のボックスシートで汽車旅をしている夢を見ましょう。
湧網線の線路跡はサイクリングロードとして整備されています。
能取湖沿いの道を自転車で走ったらさぞや気持ち良いでしょう。
ちなみにこの辺りには、サンゴ草とも呼ばれるアッケシソウが群生しています。
9月ごろには湖畔を絨毯のように赤く染めた景色が、網走市鉄道記念館の建物やバスの車窓からも見ることができます。
網走駅からバスでの行き方と見学時間
網走駅から常呂行き(または経由)の路線バスで20分程度のバス停「卯原内」下車すぐです。
やはりというか、特に日中は本数が少ないので事前に網走バスの時刻表で確認必須です。
なお、卯原内での滞在時間の目安は、資料館と交通公園合わせて40分くらいだと思ってください。
風光明媚な閑散ローカル線の宿命
卯原内駅跡を訪れただけでも、湧網線がとても車窓が美しい路線だったことは容易に想像がつきます。
現代の感覚からすると「観光列車を走らせたら...」などと考えてしまいがちですが、そういう路線・列車はたいてい新幹線や特急でアクセスできるそれなりの都市を拠点にしています。
秋田~青森の五能線、熊本~鹿児島の肥薩線が典型例です。
湧網線の拠点となる網走は規模も小さく、今でも札幌から特急で5時間以上かかる点を考慮すると、観光路線としても生き残るのは難しかったと思います。
湧網線が今伝えているのは、明らかに採算が取れない区間にも線路が敷かれていたほど、鉄道は生活に密着した公共財であった時代の記憶なのでしょう。