十勝亜阿房列車・序:広尾線と士幌線、北の大地を走った鉄路の跡を追う

旅行記
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7月の北海道は快適

梅雨後半の日本の7月上旬は旅行に行きたくなる季節ではない。
暑くて雨が多くジメジメしている。
そのうえ最近は集中豪雨まで頻発しているのだ。
しかし梅雨がない北海道は例外である。
他の地域よりは涼しいし、何より湿度が低いのでカラッとしていて快適だ。
しかも夏休み前なのでさほど混まないのも良い。

そんなわけで、過去にも「亜阿房列車」シリーズに度々ご出演いただいている地蔵氏と7月の旅行の計画をした時も、行き先は北海道にすんなりと決まった。
広大な北海道の中から候補をいろいろと悩んだ挙句、帯広駅より北に70㎞ほどの所にあるタウシュベツ橋梁を見に行くのはどうかと提案して先方からも快諾を得て、十勝亜阿呆列車実現の運びとなった。
タウシュベツ橋梁とは廃線となった国鉄士幌線しほろのコンクリート製のアーチ橋で、ローマの水道橋にも喩えられる神秘的な廃墟として知られている。
しかし近年は崩壊が進んでいるので、他の旧士幌線関連施設と併せて是非訪れたいスポットだった。

タウシュベツ橋梁
2025年7月現在、各所が崩落している

それから地蔵氏について説明しておくと、歳は私と同じくらい、去年まで私の会社の同僚であったが、その正体は某寺院の副住職である。
彼が退職した後、本職に励んでいる写真を同僚たちに見せたところ、会社にいた頃の冴えない姿とのギャップの大きさに皆が驚いていた。
「あっちではちゃんとやってるんだ。」「意外とガチなんだね。」
といった具合だ。
鉄道だけでなく車を運転するのが好きなので、ペーパードライバーの私が廃線跡を辿るには彼の協力が欠かせない。

かくして2025年7月の第2週、私(185系)と地蔵氏の二人は帯広空港を拠点として、2日間レンタカーで士幌線の遺構を中心に道東の大地十勝地方を巡った。

以下はそのプロローグとなる。
なお「亜阿房列車」とは題しているものの、今回は実際に列車に乗るわけではなく、廃線跡や駅跡を訪れてかつて列車が走っていた姿を偲ぶのが目的である。

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エアドゥ061便で羽田から帯広空港へ飛ぶ

朝4時半過ぎに家を出ると既に空が白んでいた。
静かで涼しい東京は水蒸気で煙っていて、まるで山間部の朝のようだった。
JRと京急を乗り継いで羽田空港へ向かう。
朝5時の新宿駅には、ホームに座り込んだり横になったりする者が多数いた。
私も何度も同じことをしたがある。

羽田空港駅に着いたのは6時10分頃。
手続きを済ませて搭乗口で待っていると、「いやぁ~」と言いながら地蔵氏がやって来た。

これから乗るのは6時55分発のエアドゥ061便帯広行きだ。
今回は沖止めなのでバスで駐機場を移動する。
地蔵氏は飛行機にも興味があるので、「これは尾翼が然々だからボーイング機だ」とか「あの機材は最新型のエアバス○○型だ」とか、実に楽しそうそうだ。
乗り物マニアが一般人からどのように見られているのか、彼と話しているといろいろと勉強になる。

この時間でも空港は混雑しているようで、離陸まで時間がかかった。
「あ、やっぱり。今は風が南向きだから第○滑走路を使うんですね。」と、地蔵氏がまた一人で納得する。
彼曰く、飛行機は向かい風で離陸するらしい。
私には方角も風向きも分からないが、とにかく離陸すると東京の空はあいにく霞んでいた。

機内でウトウトしていると、「あれが岩手山の山頂ですかね?」と地蔵氏が指をつつく。
「うむ。ならば真下に見えるギザギザの地形は三陸海岸で、あそこに連なっているのが八甲田山、その向こうの海が津軽海峡でしょう。」
「同感です。やっぱり185系さんは教養がありますなぁ。」
どうやら品定めに地理の知識をテストされていたらしい。
オンデマンドの背面モニターは無いが、むしろ無いからこそ会話が弾んで、やがて飛行機は高度を下げて、襟裳えりも岬に続いて色鮮やかに耕された十勝平野が見えてきた。
今度の空はよく澄んでいる。

日高山脈と太平洋に挟まれて十勝平野が広がる

とかち帯広空港に着陸した。
他の飛行機の姿はない。
降機すると副住職様は「狭いっすね~」とか「やっぱ我が社(地蔵氏が株式を保有する全日空のこと)のプレミアムクラスだな」とマウントを開始する。
これは毎度のことだし、そもそも労働者である私と彼は身分階級が違うので腹は立たないが、「申し訳ないけど、地蔵さんがLCCに乗る価値観が無いのと同じで、私も上級クラスに乗る価値観が無いねん。」とあしらっておく。
「いやぁ~、そっすか~。」と決まりが悪そうに彼は応えた。

ターミナルビルは空港というよりスキーリゾートのホテルのような建物だった。
空港の外に出て「さすが北海道は涼しい!」と本来はなるべきなのだが、そうならなかった。
この日の帯広の最高気温は30度越えで、北海道どころか全国でも有数の高温だったのである。
気温だけでみると避暑旅も逆効果のように思える。
しかし北海道の夏は湿度が低いので日陰に入ると涼しいし、歩いていて汗ばむような不快さはない。

「やっぱり北海道ですね」と二人で感心しながら、白樺の林を歩いてレンタカーの事務所に向かった。
次回は士幌線跡巡りの前座として、帯広より南に延びていた広尾線の駅跡を訪れる。
縁起の良さで全国的にも有名な幸福駅と愛国駅である。




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