タリス(Thalys)はフランス・ベルギー・オランダ・ドイツで運行されている、ヨーロッパの国際高速列車です。
パリを起点にブリュッセル(ベルギー)を経てアムステルダム(オランダ)に行く便と、ケルン(ドイツ)に行く便があります。
2022年10月上旬、パリからブリュッセルまで1等車に当たるコンフォートクラスに乗車しました。
(追記)2023年10月にタリスとユーロスターは合併し、新たに「ユーロスター」としてのブランドに生まれ変わりました。
運行会社が変わるものの、旧タリスは相変わらず真っ赤な車両で運転されています。
最高速度は300㎞、ブリュッセルへの所要時間は1時間20分。
赤いエレガントな車体が特徴で、最高速度は300㎞です。
フランスの新幹線TGVをベースにしています。
パリからのおよその所要時間はブリュッセルまで1時間20分、その先のアムステルダム・ケルンまでも3時間20分です。
「ブルーバナナ」を含む欧州の心臓部分を巡るだけあって、本数も多い時には1時間に2本と、国際列車というより日本の新幹線を思わせる便利なダイヤになっています。
タリスが運行を開始したのは1996年。
1993年に発効したマーストリヒト条約によって設立された現在のEU(ヨーロッパ連合)が、その規模・質両面で拡大していた時期でした。
ブレグジットも、財政危機も、旧東欧諸国加盟による不協和音もまだない時代の新生EUです。
タリスは外見の美しさのみならず、乗り入れする4か国の設備規格に全て対応できる汎用性も備えている、ヨーロッパ統合を象徴する国際列車なのです。
なお列車名のThalysは造語で、発音しやすく響きも良いことから採用されたようです。
乗り入れ国のいずれかの言語を使わないあたりにも、多文化主義の権化たるEUらしさを感じます。
タリスの車内・座席とサービス
タリスはリニューアルが進行中で、更新済み車両は「Thalys Ruby」と呼ばれています。
本記事で紹介するのは未リニューアル編成の車内です。
リニューアル有無とは別に、タリスには丸っこい鼻の新型(PBKA編成)と、ややシャープな顔立ちの旧型(PBA編成)があります。
車両運用の法則としては「ケルン行きならばPBKA編成である」のみが成り立ちます。
内装に関しては新旧でほとんど差異はありません。
スタンダードクラス(2等車)の車内
2等車に相当するスタンダードクラスの車内は、座席も床もタリスのイメージカラーの赤。
シックな色合いですが、少し重たいと感じる人もいるかもしれません。
座席は2&2の配置で、全座席に充電用コンセントがありWi-Fiも完備しています。
所要時間は長くても3時間半ですし、特にこだわりがなければスタンダードでも十分だと思います。
コンフォート・プレミアクラス(1等車)の車内
1等車に相当するコンフォート・プレミアムの車内は、通路を挟んで1&2の座席配置です。
コンフォートとプレミアムの違いは予約方法と費用の章で詳しく説明します。
内装に関してはスタンダードと基本的に同じです。
一人掛けの座席は一人旅にとって貴重ですし、二人の場合も一列の向かい合い座席(duo face to face)は選ぶ価値があります。(こちらも予約方法と費用の章参照)
4号車のバー車両は未リニューアル編成のみにある
「Welcome Bar」という立ち席タイプのカフェテリア車両が4号車(または14号車)にあります。
ここで軽食や飲み物・アルコールを買うことができます。
気軽に立ち寄れる良い設備なのですが、リニューアル済み編成「タリスルビー」ではバーが廃止され、代わりに自動販売機が設置されるのみとなっています。
【乗車記】何事もなくベルギー国境を通過
パリの駅は北駅(Gare du Nord)、荷物検査あり。
パリには「パリ駅」は存在せず、幾つかの大きなターミナル駅があります。
タリスは発着するのはGare du Nord(パリ北駅)です。
この駅からは他にもイギリスへ行くユーロスターや、フランス北部への国内線TGVが乗り入れています。
私が乗車するのは朝7時55分発の列車。
パリ北駅ではプラットホーム前で簡単なセキュリティチェックがあり、出発2分前にドアが閉まるのでギリギリ到着では間に合いません。
プラットホームが分かるのは15分くらい前なので、そのくらいに駅に到着するのがよいでしょう。
今回乗車したのは旧型のPBA編成です。
1等車は空いていました。
駅で買ったサンドイッチとカプチーノの朝食を取りながら出発を待ちます。
定刻に出発。
サマータイムの最終盤なので日の出時刻が遅く、8時でもあまり明るくありません。
そして、霧がかかっていて余計に暗く感じられます。
ところで、私は多くの鉄道ファンと違って車内放送には関心がない、というか日本のものは喧しいと思っています。
しかし、タリスの車内放送は印象的でした。
車掌がフランス語・オランダ語・ドイツ語そして英語の順に、一気に一人で放送するのです。
これには本当に驚きました。
バーではベルギービールが買える!
広々としたフランス北部の平野を時速300㎞で突き進みます。
海が近いせいか、この辺りには風車がたくさん並んでいます。
4号車にあるウェルカムバーで気分転換です。
まだ朝8時半ですが、ベルギービールがあるとなれば飲まない訳にはいきません。
日本でもお馴染みの「Duvel」は「世界一魔性を秘めたビール」とも称される、ゴールデンエールです。
見た目は清楚ながら味わいは芳醇にして複雑というあざといビールで、実はアルコール度数が8.5%もあります。
パリを発ってから1時間くらいでベルギーとの国境を通過します。
川を渡るわけでもなく、山越えがあるわけでもなく、ただ単にベルギーに入国します。
日本の県境でももう少しドラマチックな展開ですが、大国との国境がここまで開けっ広げな小国ベルギーのこれまでの苦労を思わずにいられません。
ブリュッセルの駅は南駅。Midi,Zuidも「南」の意味
タリスが停車するのは日本語でいうブリュッセル南駅。
多言語国家らしく、Bruxelles-Midi(フランス語)やBrussel-Zuid(オランダ語)という表記がありますが同じ駅です。
この駅ではパリほど厳しい検査はありませんが、警察が場合に応じてチェックすることになっています。
案の定、好奇心旺盛に駅を歩き回っていた私は詰め所に招待され、パスポートを提示したうえで渡航目的や行き先を尋ねられました。
観光地として有名なグランプラスへは南駅から徒歩20分程度ですが、ブリュッセル中央駅からはもっと近いです。
タリスのチケット所有者は、南駅から中央駅までの列車に乗車することができます。
予約方法と費用
1等車のComfortとPremiumの違いに注意
旧タリスの予約は新しくなったユーロスターの公式サイトから行うことができます。
目的地の綴りを忘れてしまっても、このサイトは候補駅から選択する方式なので使いやすいと思います。
さて、旧タリスの車両には2等と1等がありますが、予約クラスはStandard,Comfort,Premiumの3種類があります。
このうち2等車に相当するのがStandardで、残りは1等車です。
ComfortとPremiumの違いは、チケットの自由度・食事サービスの有無・ラウンジの利用範囲です。
- コンフォート⇒自席での食事・飲み物サービス無しの1等車。
出発7日前を過ぎると変更手数料が15€(差額があればさらに上乗せ)必要で、返金も不可(逆に言えば7日前までは手数料なしで可能)
アムステルダム・スキポール空港・ロッテルダム駅のみラウンジ利用が可能。 - プレミアム⇒自席での食事・飲み物サービス有りの1等車。
変更・返金可能。
オランダ国内含めパリやブリュッセルのラウンジも利用可能。
ちなみに、2023年6月にタリスのプレミアムを利用しました。
食事内容・ラウンジの雰囲気などについてはブリュッセルからケルンまで乗車した記事をご覧ください。
便・クラスを選択すると、チケットの条件などが確認できます。
その後ログイン画面が現れますが、下”Check out as a guest”で進めてかまいません。
次に乗客の情報を入力します。
SURNAME=苗字、FIRSTNAME=下の名前です。
電話番号は必須ではありませんが、プルダウンからJAPAN(+81)を選び、その後に先頭の0を除いた番号を入力します。
最後にクレジットカード情報を入力します。
私は問題なく支払いできましたが、なぜかエラーになる(海外のサイトで時々ある)場合でもPayPalを使うと上手くいきました。
最安のStandardの値段は29€~
StandardとComfortの費用は、需給によって列車・クラス毎に変動するシステムです。
時期にもよりますが、1カ月前でもじりじりと料金が上がっているので、予定が決まったら早めに予約(最大で4カ月前から予約可能)しましょう。
Standardの最安値は29€(パリ~ブリュッセル)、35€(パリ~アムステルダム)、Comfortではそれぞれ46€、64€くらいでしょうか。
列車によってはComfortの値段の方がStandardよりも安いという珍現象が発生していることがあります。
一方、Premiumの料金は他のクラスの様に最安値と直前料金で何倍も差が開くことはなく、150~220€(パリ~アムステルダム)を変動しているようです。
欧州の要
大国に挟まれた小国ベルギーは、これまで何度も戦場となってきました。
特に第一次世界大戦でドイツがフランスに侵攻するために、ベルギーの中立を犯すことを前提にした「シュリーフェン・プラン」を策定し実行したことはよく知られています。
ケルンからタリスに乗ってパリに行くと、そのプランに近いルートを辿ることになります。
そんな大国に翻弄されてきたこの土地を、現在のヨーロッパ統合を象徴する国際列車が、時速300㎞で国境など存在しないが如く結んでいます。
旧タリスの運行会社、そして新ユーロスターの本社も、EU本部と同じベルギーのブリュッセルにあります。
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