ヨーロッパを旅行するにあたって、メジャーどころのフランス・イタリア・ドイツ以外でも、東欧が面白いと聞いたことはありませんか?
とはいえ
- 小さな国が多くてよく分からない
- 社会主義時代の暗いイメージがある
- 治安が悪く政情不安かも
といった負のイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?
本記事では、本当は魅力的な場所である東欧について、正しく理解するために有益な知識・視点をお伝えします。
やや固い話に感じるかもしれませんが、これを読めば東欧旅行が断然面白くなるはずなので、最後まで目を通していただけたらと思います。
なお、この記事で使用している写真は全て、各国で筆者が撮影したものです。
東欧は4つの帝国に囲まれていた地域である
そもそも「東欧」という言葉自体の定義が不明確ですが、ここでは「第二次世界大戦後、社会主義陣営に組み込まれたヨーロッパの地域」という前提で話を進めます。
この地域は、北東から時計回りに、ロシア帝国・オスマン(トルコ)帝国・オーストリア帝国・ドイツ帝国に囲まれていました。一方で、東欧諸国はその多くが第一次世界大戦以後、あるいは冷戦後に独立した、比較的小さな国です。つまり、歴史的にこれらの大国がパワーゲームにおいて力を投影する対象が東欧であったのです。
そのため、どの帝国の支配が長く続いたかによって、その国の宗教や文化が異なるのがこの地域の特徴です。
東欧を三分割する
さて、以上のフレームワークを念頭に、この複雑な地域を分かりやすく理解するために、東欧を次の3つのカテゴリーに分けて把握することを提案します。
- 西部の「中央ヨーロッパ」
- 北東部の「ロシア圏」
- 南東部の「バルカン」
それでは、順にそれぞれの特徴を確認していきましょう。
西欧に近い中央ヨーロッパ
「中央ヨーロッパ」の特徴は以下の通りです。
- ドイツ・オーストリアの影響が強い
- 経済が比較的発展している
- 一般に想像される「中世のヨーロッパ」のイメージがしっくりくる
- 宗教はカトリックがメイン
歴史的にドイツ・オーストリアとの結びつきが強く、オレンジ色の屋根の家や石畳といった「THE ヨーロッパ」の街並みが見られます。
特にチェコの首都プラハの写真は、旅行のパンフレットなどに頻繁に使われるくらいに美しく、ドナウ川にかかるくさり橋の夜景が有名なハンガリーの首都ブダペスト共に、東欧旅行の定番です。
経済発展やインフラ整備も進み、旅行する上でのハードルは西欧とそう大して変わりません。すべての国がEUに加盟し、一部の国ではユーロも導入されています。
具体的な国は
- チェコ
- ハンガリー
- ポーランド
- スロバキア
- スロベニア
- クロアチア
- エストニア
- ラトビア
- リトアニア
です。
なお、エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト三国は地理的にはカテゴリー2に分類されそうですが、歴史的経緯・文化から理解するという本記事の趣旨に即してこちらに含めました。
旧ソ連のロシア圏
「ロシア圏」の特徴は
- ロシアの影響が強い
- 社会主義時代の名残が点在する
- 宗教は正教会がメイン
ロシアを含めた旧ソ連構成国(バルト三国を除く)がこのカテゴリーに該当します。
宗教は正教会が多数派で、玉葱型の黄金のドームを持つ教会の内部には、聖人を描いた絵、イコンが並びます。
「ロシア圏」というと、帝国主義的な世界観を感じる方もいるかもしれませんが(当然ながらそんなことはありません)、例えば「古代ルーシ圏」では理解しづらいのでこの名称を使います。
旧ソビエト色が最も強い地域で、モスクワに多く見られるイカツイ建物や、古く格式のある大型ホテル、広場や地下鉄の駅の残るレーニン像や労働者のレリーフなど独特の雰囲気があります。
有名な観光地は、やはりロシアの歩みが凝縮されたモスクワ。他では、帝政時代の華やかな雰囲気のサンクトペテルブルクや、ウクライナの首都キエフが代表的です。
モスクワが東京、サンクトペテルブルクが京都、キエフが奈良と表現されることもあります。
具体的な国は
- ロシア
- ウクライナ
- ベラルーシ
- モルドバ
です。
モルドバはルーマニアとの類似点が多く、正直微妙なのですが、トルコよりロシアやソ連の影響の方が強いなどの理由からこちらに含めました。
旧ユーゴスラビア連邦のバルカン
「バルカン」の特徴は
- トルコの影響が強い
- 最も多様性に富み、複雑な地域
- 宗教は正教会の他、イスラム教が多数派の国も多い
敢えて表現すれば「カオスな雰囲気」です。
この地域には旧ユーゴスラビア構成国の多くが含まれますが、この国がなぜ解体してたくさんの国に分かれたかというと、やはりそれだけ多様性があるからです。
世界史を習った人は、サラエボ事件や第一次世界大戦前の「バルカンはヨーロッパの火薬庫」という言葉を覚えているかもしれません。
ヨーロッパでありながらイスラム教徒も多いため、教会以外にもモスクが見られ、(日本人の私が言うのも変ですが)エキゾチックな雰囲気も楽しめます。
アジアとヨーロッパが隣り合う街
具体的な国は
- セルビア
- モンテネグロ
- ボスニアヘルツェゴビナ
- マケドニア
- コソボ
- アルバニア
- ルーマニア
- ブルガリア
です。
旧ユーゴスラビア構成国の中で、スロベニアとクロアチアはカテゴリー1の「中央ヨーロッパ」に分類していますが、これは両国がトルコよりオーストリア・ハンガリー帝国の影響を強く受け、宗教もカトリックが多数派なためです。
国境を疑え!
これまで分かりやすくするために敢えて、国ごとにカテゴリー分けをしました。
しかし、留意すべきことは、
カテゴリーの境界は国境と一致しないということです。
どういうことか?
ウクライナを例に説明しましょう。まずは下の写真を見てください。
先ほどウクライナを「ロシア圏」に分類しました。首都キエフの写真を見ると、なるほど玉葱型のドームの教会など、その特徴が見られます。
しかし次の写真はどうでしょうか。
実はこの写真もウクライナです。ただし東部に位置するキエフではなく、西部の都市リヴィウのものです。
キエフと比べてだいぶ違った印象を受けませんか?
我々がよく想像する「石畳の街並みのヨーロッパ」、そう。
カテゴリー1の「中央ヨーロッパ」の特徴ですね。
実際この都市は長らくオーストリアの支配下にあり、「Lemberg」というドイツ語の都市名もありました。
つまり「中央ヨーロッパ」と「ロシア圏」の境界は、国境ではなくウクライナ国内にあったのです。
さらに過去の例では旧ユーゴスラビアも「中央ヨーロッパ」のクロアチアと、「バルカン」のセルビアを含む国家でした。
現在の地図からは読み取れない、新しい東欧の姿が見えてくることでしょう。
東欧を旅しよう
漠然とした東欧のイメージが、かなり整理されてきたのではないでしょうか?
もちろん、同じカテゴリーの国でもそれぞれ違いは存在します。
ここで提唱しているのは、 良くも悪くも世界史の結果として生じた文化的類似性に着目した東欧の見方であり、帝国主義そのものではありません。
「大国から影響を受けた」といっても、だからといって支配されていた側の文化が消滅することはありません。
訪れた国や都市のどこが同じでどこが違うのか、そういったことを意識することで、あなたの旅行はより一層充実したものになるはずです。
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