津軽鉄道は五能線の五所川原駅から津軽半島の中央部を北上して津軽中里駅へと至る私鉄です。
さして沿線に名所があるわけでも人口が多い訳でもないこのローカル私鉄を有名たらしめているのは、言うまでもなく津軽の冬の風物詩となったストーブ列車の存在でしょう。
2019年12月中旬、五所川原駅から普通列車で金木駅まで行き、ストーブ列車で津軽中里駅で向かい、またストーブ列車で五所川原駅まで折り返しました。
普通列車で五所川原駅から金木駅へ
昔の車両が集まる五所川原駅
五所川原駅でのJR五能線から津軽鉄道の乗り換えは、長い跨線橋を通って行います。
途中改札は無く切符は下車駅(金木駅)で買うように言われたので、乗り換え時間は5分もあれば十分です。
さて、津軽鉄道の五所川原駅のホームに立った時、JR側とは全く違う異なった雰囲気を感じます。
ホーム周辺にはストーブ列車に使われる旧式客車だけでなく、長い間野ざらしになっているであろうボロボロのディーゼルカーや貨車が放置(少なくとも「保存」とは表現しがたい)されているのです。
五能線との乗り継ぎは良好なことが多いですが、敢えて時間を作ってこの駅でしばらくゆっくりするのも良いかと思います。
なお、五所川原駅まで利用する五能線も日本海や岩木山の車窓が素晴らしく、是非お勧めしたいローカル線です。
その人気は全国区で、「乗りたいローカル線」としてよく取り上げられます。
ローカル私鉄らしいディーゼルカーの普通列車
普通列車はオレンジ色の軽快なディーゼルカーです。
地方の中小私鉄は車両をJRや大手私鉄から中古車を譲渡することで調達することが多いですが、この車両は津軽鉄道オリジナルです。
中央に見えるのがディーゼル機関車。
沿線風景としては特筆すべき点というものは無く、基本的に水田地帯をのんびりと走っていきます。
途中の毘沙門は林の中にあり、まるで神社の中にいるような駅でした。
金木駅ではタブレット交換が行われる
金木駅は途中駅としては最も大きな駅で、ここでは上下列車の行き違いが行われます。
注目すべきは今やめったに見られないタブレット交換。
博物館などで機器は時折見かけますが、現役の実演を鑑賞することができて大変感動しました。
駅の事務室にはタブレットの機械だけでなく、切符入れのような博物館入りできそうな品があります。
この駅で切符を買うと鋏を入れてくれました。
自動改札機やスタンプが当たり前の時代に、何もかもが懐かしいです。
※駅員の方の許可を得て撮影しています
※駅員の方の許可を得て撮影しています
駅周辺には太宰治ゆかりの建物・博物館があります。
また駅の2階にはカフェがあります。
ストーブ列車で津軽中里まで行き、折り返す
行きのストーブ列車は静か
金木駅から津軽中里駅までストーブ列車に乗ります。
1940年代に製造された国鉄の旧式客車で12月~3月の間だけ運転され、車内に石炭ストーブが車内に2つ設置されています。
余計な改造などはされず、昔ながらの姿をよく保っているのが何よりもの魅力でしょう。
ストーブ列車には一般型のディーゼルカーも併結されますが、私が乗ったのは機関車が点検の日だったので、ディーゼルカーだけで客車を牽く形態でした。
なおストーブ車両の乗車には400円のストーブ列車料金が必要ですが、この区間の場合は追加料金を徴収されませんでした。
古い客車の車内に入ると、石炭の香りが立ち込めてきます。
この列車の車内は空いており、乗客は10名もいなかったように思いますが、いずれも観光客風の個人でした。
ストーブ列車にはアテンダントがいて車内販売もあり、ソフトドリンクやお酒・グッズなどが買えますが、津軽鉄道の旅の必需品といえばスルメです。
これをストーブの上で焼いてくれます。
アツアツで香ばしいスルメをお酒と一緒に楽しむのは最高の贅沢です。
終点の津軽中里駅に到着
スルメはおつまみとして一人で食べきるには結構大きいです。
食べきらないうちに終着の津軽中里駅に到着しました。
転車台が構内にある津軽中里駅の隣には、土産物などを売っている広い交流施設があり、団体旅行客の待合室となっていました。
この駅から北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅までのバスが1日に数往復あります。
帰りのストーブ列車料金込みの切符を買って、再び旧型客車に乗り込みます。
ちなみにアテンダントによると、ストーブ列車料金は石炭の購入費に充てられているとのことです。
帰りのストーブ列車は大混雑!
帰りの五所川原行きのストーブ列車は台湾からの団体旅行客で混雑し、座席はかなり埋まっていました。
なお団体客と個人客は車内に張られたロープで区別されます。
閑散期であっても団体客で混み合うことは多いそうです。
ただでさえダルマストーブがあるうえに、人口密度も多いため車内は暑く息苦しいです。
そんな時は車掌に頼めば窓を開けてくれます。(私は国鉄車両の窓の開け方は知っていますが、勝手に開けてはいけないようです。)
それでも暑いので車内販売でリンゴジュースを飲んだ後、スルメとお酒の続きを始めました。
テーブルの裏側にある栓抜きも懐かしい。
夕方の通学時間帯だったので、隣のディーゼルカーはストーブ車両以上に混雑していました。
ストーブ列車はあくまで観光列車である
東北地方では多くのローカル私鉄が廃止されてしまった中で、津軽鉄道は俗化されていない観光列車、ストーブ列車を走らせることで世界中から客を集めています。
旧型客車に石炭ストーブという、他にはない体験を提供できれば、かくも立地の悪い場所にも人が来るのかと驚かずにはいられません。
(ストーブ列車は)団体・個人問わず外国人にも人気のようだが、車両は俗化されておらず、それが魅力的でもある。
当サイト管理人masaki 2019年12月の日記より抜粋
こんなにも旅情を味わえるのなら、無知なスウェーデンの少女を利用する怪しい環境団体からの「化石賞」も、有難く頂こうではないか。
※私が津軽鉄道に乗車した1週間ほど前にCOP25が開催され、日本は石炭火力発電の利用に積極的(=温暖化対策に消極的)だとして、環境NGO団体から「化石賞」を受賞していた。
ここで一つ留意することは、ストーブ列車に乗っているのは団体・個人、日本人・外国人を問わず皆が観光客だということです。
つまり、ストーブ列車は車両の古さや旅情の演出では大変結構ですが、そこに地元民の足としてのローカル私鉄らしさはありません。
ですから津軽鉄道を往復するならば片方はストーブ列車で津軽地方の風物詩を堪能し、もう片方は一般車両に乗車して、土地の情景に溶け込んだお婆さんや、将来は津軽美人になるであろう高校生の話す難解な津軽弁を聞くのが良いでしょう。