南海電鉄の特急「サザン」座席指定車両で和歌山へ【旧型車両10000系に乗車】

私鉄
サザンの座席指定車両

南海電鉄の特急「サザン」は異なる2つの列車を合体させたユニークな存在だ。
なんば駅と和歌山市駅(一部は和歌山港駅)を結ぶこの列車は、自由席車両と指定席車両が4両ずつ連結されている。
自由席は料金不要の一般の通勤電車、指定席はリクライニングシートが並ぶ長距離向けの列車。
これら性格の違う2つの編成が、同じ「特急」を名乗って走っているのである。

2024年9月中旬、なんば駅から和歌山市駅までサザンの指定席車両に乗車した。
その後、和歌山城なども少しだけ観光した。

青線がサザンのルート
国土地理院の地図を加工して利用
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リクライニングシートの座席指定車両がおすすめ

南海なんば駅は行き止まり式の堂々たるターミナル駅だ。
その規模は阪急大阪梅田駅に引けを取らない。
梅田駅の電車たちが伝統のマルーン色の統一美を見せているのに対し、なんば駅に揃う電車たちはいかにも個性的である。
一番目立つのは正面から向かって右端にいる、紺一色の奇抜な仮面をかぶった関空特急「ラピート」だろう。
対照的に塗装も顔も国鉄特急を思わせる、実直そうな40年選手の特急「こうや」もいる。

なんば駅
一番手前に見えるのがサザンの自由席車両

私がこれから乗る特急「サザン」は8両編成で、後ろ(なんば寄り)4両が一般型車両で、前(和歌山寄り)4両がリクライニングシートの座席指定車両だ。
指定席車両は顔つきこそ一般車のようだが、扉が片側1~2か所だけ。
窓も2列分の大きさなので長距離列車らしさは感じる。
自由席車両が「通勤用特急電車」なら、指定席車両は「中長距離用特急列車」である。

なお、サザンには旧型車両(10000系)と新型車両(12000系)がある。
新型車両は補佐要員のようなもので、土日のみ全体の三分の一程度の便で運用されるにすぎない。
新型車両には「サザン・プレミアム」の愛称がついていて、運用は公式サイトの時刻表から確認できる。

今日は平日だから当然旧型車両である。
こちらも1980年代のかなり古い車両で、車内は昭和~平成初期を思わせるレトロな空間だった。
客室とデッキを隔てる茶色の透明ガラスが昔の喫茶店っぽい。
トイレも付いている。
ちなみに、後ろの自由席車両はもっと古いロングシートの電車だった。
サザンの座席指定料金は520円。
なんば・和歌山市駅間の所要時間が1時間なのを考えると、指定席車両に乗る価値はあると言えるだろう。
なお、同区間の乗車券は970円だ。

座席指定券は南海電鉄の公式サイトよりチケットレスで購入できる。
なんば駅の窓口はラピートの予約をする外国人で並ぶので、チケットレスサービス(会員登録不要)の利用を勧める。

10時20分、なんば駅発。
中途半端な時間帯のためか、車内は空いていた。
指定車は4両あるが、1両でも足りるのではないかと思えるほどである。
新今宮・天下茶屋・堺とこまめに停車して僅かばかりの客を拾っていく。
どうやらラピートと間違って乗車した外国人が何度か紛れ込んできたらしく、制服を着た小柄な若い女性アテンダントが彼らを案内していた。
乗客数に反して忙しそうである。

サザンは車両こそ古いものの、乗り心地は悪くない。
このくらいの車齢の車両なら関西では当たり前に走っているし、良いものは古くなっても良い。
「レトロな内装」というのは苦し紛れの弁護に聞こえるかもしれないが、スタイリッシュな近年の車両には無い素朴な包容力のようなものを感じる。
私は子供の頃東京に行く時に乗った100系新幹線を思い出した。
もっとも、現代の標準装備となったコンセントはないので、スマホ依存症の人にとってはつらいかもしれない。

右手にはまだ工業地帯と松林が続いている。
左手に見える丘のようなものは古墳だろうか?
岸和田駅の近くでは、紀州監視を担ったとされる岸和田城に目配せする。

沖に浮かぶ関西空港を過ぎてしばらく走ると平野が尽き、海沿いの行路となる。
もう工場越しの海ではなく、明るく青い海である。
みさき公園駅からは山越えをして、畿内和泉国から紀伊国の和歌山県に入る。
全体的にこの展開はJR神戸線の須磨周辺に似ている。

県境を越えてすぐ、まだ平野が広がらない辺りで和歌山大学前駅に停車。
ここで降りた乗客が意外と多かった。
2012年に開業した新しい駅で、周辺はニュータウンのようだ。
フィナーレとして紀ノ川を渡り、終点和歌山市駅に到着。
JRの駅は「和歌山駅」だが、南海の場合は「和歌山市駅」なので注意されたい。

ちなみに、明石海峡大橋開通前は大阪から徳島へはサザンとフェリーを乗り継ぐのがメインルートだった。
今でも1日2~3往復のサザンが、この先の和歌山港駅まで運転されている。
和歌山市駅はホテルや図書館も併設しており、新しく綺麗な駅だった。
和歌山で数時間あるので、これから和歌山城と県立博物館を訪れようと思う。

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徳川御三家、紀州藩の和歌山城

和歌山城へはJRの和歌山駅よりも和歌山市駅の方が近い。
歩いて10分程度だ。
和歌山城の前に隣接する県立博物館に行くが、まずは和歌山ラーメンで昼食にしよう。
真っ白い豚骨スープはあまり脂っぽくないので、クリームシチューを食べているような錯覚になる。

人口35万人の県都和歌山市も、昼間の人通りは少なかった。
外国人は所々にいるものの、あまり日本人観光客は多くないようである。
和歌山市は畿内周縁部で立派な城を有する点では姫路を小さくしたようだが、活気の面では全く及ばない。
それにしても、暑い。
外を少し歩いただけで汗だくのクタクタになる。
館内に入ってしばし生気を取り戻してから見学する。

博物館は県史全体を扱っていて、特に力点が置かれているのが古代~中世の高野山や熊野信仰(現在は三重県も含むが旧国では紀伊)だった。
お馴染みの空海の肖像画はもちろん、人生や仏の教えについて図解した曼荼羅絵図も見ていて面白い。
一方近世以降はあっさりしていた。
城に関しては城内の北側にある歴史館で扱っているようだ。

再び炎天下の中を歩いて和歌山城の大天守を目指す。
姫路城にはさすがに敵わないが、大小の天守と櫓を渡櫓が連ねる、徳川御三家に相応しい構えである。
本丸跡から天守閣がよく見えた。

入場料を払い、強烈な日差しに輝く真っ白な砂利を踏んで天守閣内部へ。
戦争で焼けた後、1950年代後半に鉄筋コンクリートの建物が再建されている。
最上層からは和歌山市街・紀の川・紀伊水道の見晴らしが良い。
展示室には徳川家ゆかりの品が並んでいるが、特に目を引くものはなかった。
むしろ「レトロ」とも「クラシック」とも形容しうる、古めかしい地方の郷土資料室の雰囲気の方が印象的であった。
また見学順路では渡櫓を通るので、その長さから城のスケールを実感することができる。

城内には動物園がある。
日当たりが良く(つまりひときわ暑い)しかも臭いにもかかわらず、ここが一番賑わっていた。
動物たちは奥の日陰で横になりながら、「暑い中ご苦労様」とでも言いたそうに人間を見下していた。
ペンギンだけが気持ちよさそうに泳いでいる。
緑色の大型インコがいたので、呼びかけるとブツブツ何か呟きながらやって来た。
親善を請うべく話しかけていたのだが、後ろでカップルが待っているのに気づいて仕方なく退散した。

城内には他にも庭園や公園があり、天守閣以外は動物園も含め無料で開放されている。
また、「御橋廊下」という堀を跨いで架けられた傾斜のある通路があった。
ここは実際に通ることができる。
そのためには靴を脱がなければならないが、床には凹凸があって歩くのは一苦労だった。
もしかしたら、御橋廊下は足裏マッサージのための健康施設だったのかもしれぬ。

これで和歌山観光を終え、今度はJR和歌山駅より特急「くろしお」に乗って新大阪駅へ向かう。
「くろしお」は天王寺駅まで45分程度と南海のサザンより速く、車両も比較的新しいので快適である。
ただし、全席指定制となってしまったので特急料金だけで1,530円もする。
乗車券はJRの方が少しだけ高いから、サザンの指定席と比べても1,000円くらい割高になる。
一方、料金不要の紀州路快速は新今宮から和歌山まで80分くらいと遅い。
結局、大阪ミナミから和歌山まで速さ・快適さ・料金の総合力を勘案すると、サザンが一番無難なように思える。

帰りに乗ったJR特急くろしお

新大阪から新幹線に乗って急いで東京へ戻る。
写真を整理していると、電車の写真より動物園の写真の方が多かった。




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