私はこれまで30年にわたって鉄道ファン、さらに詳細なカテゴリーで言うと「乗り鉄」をやってきた。
だから旅行に行くにしても鉄道に乗ることがまず念頭にあって、それに付随してその土地の風物に接するというのが形式であった。
しかし最近は史跡にも興味を持ち始め、鉄道とは全く無縁の対馬に行きたくなった。
となれば、帰りは壱岐を経由して福岡に戻り、ついでに「魏志倭人伝」ゆかりの筑肥線の沿線等を巡ろう…と考えつくのは、多少歴史に興味を持った乗り物好きなら当然の成り行きである。
然るに2024年10月中旬、6日間の日程で魏志倭人伝に登場する七ヵ国、すなわち対馬国・一支国(壱岐)・末盧国(唐津)・伊都国(糸島)・奴国(福岡)・不弥国(宇美)そして投馬国(佐賀)を周った。
なお、不弥国と投馬国の所在は諸説あり、それについて学術的に説明する知識も能力も私にはもちろんないが、参考までに吉野ケ里歴史公園の特別展「邪馬台国と伊都国」でこの説が紹介されていた。
本記事は壱岐観光を終えた3日目後半、ジェットフォイルで奴国こと博多港に戻る。
ジェットフォイルで壱岐から博多まで所要時間は僅か1時間
レンタサイクルで壱岐を観光すること7時間弱。
郷ノ浦港に到着して遅めの昼食を摂った、というのが前回記事の内容だった。
これからジェットフォイルに乗って奴国こと博多に向かう。
魏志倭人伝では壱岐国の次に記されるのは末盧国(唐津)だが、今回の旅行では順番にはこだわらない。
出航15分くらい前から乗船が始まった。
初日からフェリーを利用してきたので、ジェットフォイルはとても小さく感じた。
また客層も異なり、今まで乗ったフェリーは地元の島民や釣り道具を担いだアウトドア系の旅行者が多かったが、この便は背広姿の会社員や日帰りで壱岐に来た博多っ子らしき若者が目立つ。
壱岐から博多までのジェットフォイルの料金は5,490円と、フェリー2等の2,740円の2倍である。
その反面、所要時間はフェリーの半分で、博多までは1時間しかかからない。
対馬もそうだったが、それ以上に壱岐がなぜ福岡県でなく長崎県なのか不思議だ。
私が割り当てられたのは2階席の窓側だった。
船内はやや古さを感じる。
ごろ寝したり甲板に出たりできるフェリーと違って、ジェットフォイルの航行中は着席が義務付けられている。
船内にはトイレと売店があるが、利用できる機会は乗船後かつ出航前に限られる。
なお出航後に一度だけ機内販売員が船内を巡回していた。
いずれにせよ「船旅」の牧歌的な雰囲気は皆無で、むしろ飛行機に乗っている感覚に近い。
16時55分出航。
実質丸1日滞在した壱岐観光の締めくくりとしてクラフトビールを開けた。
長崎県のクラフトビールメーカーは少ないが、その中で代表的な醸造所が壱岐にあるのは注目される。
改めて、壱岐は長崎県の酒文化の中心地である。
放送では大きな揺れが度々あるだろうとのことだった。
水面を眺めると結構波が高く、実際に上下左右に揺れた。
飛行機で乱気流に突入してシートベルトサインが点灯した時か、それ以上の強さだった。
ジェットフォイルは80km/hで航行する。
乗っているとさすがに速く感じられ、追い抜いていく大型の貨物船がもはや停まっているように見える。
やがて日が沈み、糸島半島が見えた頃にはそれは黒い山だった。
博多湾に入り、前方には見渡す限りの街灯りが現れた。
博多港に18時5分に到着した。
ここに戻ってくるのは3日ぶりだ。
私はこれまでフェリーから上陸する度に「対馬国に着いた」とか「今度は壱岐国に来た」とか思いにふけっていたが、さすがにこの都会の喧騒の中で「奴国に至る」という気分にはなれなかった。
地方の人口減少に歯止めがかからない昨今、今なお成長を続ける福岡市は人口160万人を擁する九州の首都である。
博多に宿泊
博多港から市内バスで博多駅に行く。
はじめは空いていたので座れたが、すぐに通勤・通学の帰り客で車内はぎゅうぎゅう詰めになった。
田舎から都会へのギャップで旅行気分も失せてしまう。
今夜は博多で1泊。
博多駅から近くて設備の整った新しいビジネスホテルが、このところ私の博多の定宿になっている。
全国に定宿が増えてくると旅行者としてのステータスが上がった気になる。
最近はホテル料金が高騰している。
当然ながら福岡も例外ではなく、今回泊まるホテルにしてもコロナ騒動真っただ中では1人1泊5,000円未満だったのが、今では平日の安い日でも12,000円以上だ。
もっとも現在の方が適正価格というべきであり、駅近・大浴場・コーヒーマシン・乾燥まで全自動の無料ランドリー、そして充実した朝食付きで4,000円代というのが異常だった。
もしパリで12,000円のホテルを探したら、シャワーとトイレ共用・建物は古いがそこそこ清潔で簡素な部屋・朝食無し、それで立地が悪くなければ上出来であろう。
博多に宿泊する時にいつも悩むのは「夕食を何にするか」である。
昼食から4時間も経っていないので、正直腹は減っていなかった。
だがホテル近くの、いつも行列ができているもつ鍋店の前に人が並んでいないのを見ると、つい足を運んでしまう。
もつ鍋はいかにも福岡らしい食べ物だと思う。
ここは九州といえど地理的に日本海側であり、冬は意外と寒く雪も降るので鍋料理が多い。
それにニラ・ニンニク・モツ・唐辛子という食材も中国や朝鮮の影響を感じさせる。
3日間の島めぐりを終えていよいよ後半戦に入る。
明日は筑肥線に乗って伊都国の糸島を経由して、末盧国の唐津へ向かう。
ようやく鉄道の出番だ。
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